アツイヒビシリーズはどこまで?

現代を舞台にした作品の中には、「あかく咲く声」「夏目友人帳」のように、他の作品と接点のない(独立した)シリーズの他に「アツイヒビ」などのように、同一高校を舞台としていると分かるものがあります。『アツイヒビ』に収録されている三作は、登場人物が共通しているので確実に同シリーズでしょう。

しかし、「ひび、深く」など、展開上他の作品とのからみがほとんどない作品は、同じ「学校モノ」とはいえ、同一シリーズかどうか曖昧です。同じシリーズだとするとキャラクターたちが同じ学校に通っていることになるので、これはファン心理的に非常に重要な問題。実際のところどうなのか、ある限りの情報を駆使して考えて見ます。

※これ以降、特に記述がない限り、「同一シリーズは同一時間軸にいる(同じ1年間を過ごしている)」として考えます。思考を単純にするためと、同一時間軸だったほうが(私が)楽しいと思うからです。

判断基準

前提として、短編集『アツイヒビ』に収録されている「名前のない客」以外の3作品は、同じ学校を舞台にしたシリーズだとします。

同一シリーズかどうかで判断材料になるのは大きく、登場人物、制服、校舎等の様子、の三点です。『アツイヒビ』3作と照らし合わせてこれらの条件が一致すれば、それは「同一シリーズだ」と判断することにします。

「アツイヒビ」「花の跡」「寒い日も。」で分かっている情報は大まかに言って以下の通りです。

在学生(判明分)
国吉、池田、室園、菊池、倉田、遠山、(名前のみ:緒方、中野)
制服
男子はみな学ランを着ているので、見分けには女子の制服のみを用います。
  • 「アツイヒビ」夏服
  • 「花の跡」夏服、中間服(長袖、上着)
  • 「寒い日も。」夏服、中間服、冬服
学校・校舎等の様子
  • 田舎にある
  • 夜間定時制がある
  • 旧校舎があり、どうやら荷物置き場になっている
  • 裏庭があり、どうやら池がある
  • 少なくとも二階建て以上
  • 文化祭の名前は「白朝祭」

短編では登場人物が少ないため、最も確実なキャラクターによる判定はできない場合がほとんどです。その場合は制服や校舎の様子に重点をおいて判定を試みます。

制服基準で判断する

緑川作品のうち、現代日本が舞台の18作品について、制服をチェックしていきます。「寒い日も。」より、制服のバリエーションは1年分わかっているので、それを基準に考えます。リボンを外すなどの違反服もあり得るので、セーラーの白線の本数などを重視します。

中学・高校の別が分かっているものは、そこまで考慮に入れて考えると、これまでに下記の通りのべ29種類の制服が登場したことが分かります(*)。

* 上着を着る・リボンを外す、については違反・アレンジとみなす

単行本収録分

  • 「アツイヒビ」夏服
  • 「花の跡」夏服、中間服(長袖、上着)
  • 「寒い日も。」夏服、中間服、冬服
  • 「名前のない客(小峰カヤノ)」夏または中間服
  • 「あかく咲く声(中学)」冬服
  • 「あかく咲く声(高校)」夏服、中間服、
  • 「花泥棒(中学?)」冬服
  • 「珈琲ひらり(中学)」夏服
  • 「花唄流るる(高校?)」冬服
  • 「蛍火の杜へ(中学)」夏服
  • 「蛍火の杜へ(高校)」夏服
  • 「くるくる落ち葉(高校)」中間服(違反)、
  • 「ひび、深く(高校)」中間服、冬服
  • 「夏目友人帳(高校)」夏服、冬服
  • 「夏目友人帳(レイコ)」夏服、

単行本未収録分

  • 「暁の魔術師(高校)」冬服
  • 「星も見えない(高校?)」冬服
  • 「夏にはため息をつく(高校?)」夏服
  • 「花追い人(高校?)」冬服
  • 「体温のかけら(中学)」夏服
  • 「体温のかけら(高校)」夏服
  • 「まなびやの隅(高校)」夏服、中間服

以上を一覧に書き出して整理しました。(清書後、掲載予定です)
調べてみると『アツイヒビ』三作と同じ制服が登場する作品は

  • 「アツイヒビ」
  • 「花の跡」
  • 「寒い日も。」
  • 「くるくる落ち葉」
  • 「まなびやの隅」
  • 「花唄流るる」
  • 「星も見えない」
  • 「蛍火の杜へ」
  • 「ひび、深く」

の、3作+6作品しかないことが分かります。(うち未収録2品)

この9作品を除いた11作品で、他作品と制服が重複するものはありません。多分、あえて違う制服を着せているのだと思います。だとすれば、制服が重複しているのは作為的で怪しいと思います。最初から「アツイヒビ」シリーズとして作っている、と仮定したほうが、自然ではないでしょうか。(特に、『アツイヒビ』と『蛍火の杜へ』は単行本中表紙の演出も同じです。(*)

* 視覚的に「3巻以上続く」というのを味わうために短編集の背表紙の色を統一した、という話なので(『夏目友人帳 4』より)、中表紙の統一には、作品の関連性以外の理由があるのかもしれない。

制服以外から判断する

制服以外の共通項や判断材料がある作品もあります。

「花唄流るる」
旧校舎が登場する
(美化委員が旧校舎周辺の掃き掃除をしている)
「くるくる落ち葉」
国吉と思われる人物が登場している(くるくる落ち葉(『蛍火の杜へ』130ページ)参照)
「まなびやの隅」
文化祭が「白朝祭」:「寒い日も。」との共通点
物置状態の旧校舎がある:「花唄流るる」との共通点
国吉・菊池が登場する(名前のみ):共通人物
「星も見えない」
美化委員が外の掃き掃除をしている:「花唄流るる」との共通点

全て些細な共通項ではありますが、いずれも読み切り、50ページ程度の作品だということを考えると、逆にこれだけの共通項があることのほうが怪しい!…という気になってきました。

まとめ 同一シリーズなのは…

というわけで、

  • 『アツイヒビ』収録の3作(「アツイヒビ」「花の跡」「寒い日も。」)
  • 『蛍火の杜へ』収録の4作(「花唄流るる」「蛍火の杜へ」「くるくる落ち葉」「ひび、深く」)
  • 未収録短編の2作(「星も見えない」「まなびやの隅」)

の、短編9作品は同一シリーズだ、と考えます。

制服以外に共通項のない「蛍火の杜へ」「ひび、深く」の2作は、シリーズとするのはちょっと強引だと思いますが、同じだったほうが楽しい、と主張します。同一シリーズで短編集に収録されていると思えば、未収録短編がいつまでも未収録な理由も少し想像ができる、というのも理由です。

同一シリーズだと仮定して、キャラクターのクラス表を作ってみました。
アツイヒビシリーズ人物名簿

(この記事の初出:2006年5月13日)