ファンレターを書こう
大好きな作品をもっと読みたい!応援したい!
そんなときは、ファンレターです!
ファンレターはハガキ1枚から
誰でもすぐに書ける
- ボールペン
- ハガキまたは便箋・封筒
- 63円分または84円分の切手
これだけあれば今すぐファンレターが書けます。正味100円以下。どんなグッズを買うより安く、しかもご本人に直接、あるいは編集部に間接的に、大きな応援効果があります。出さない理由はありません!
出したら迷惑なのでは?
後書きやTwitterなどでご本人が「読んでません」「送らないでください」のように書いている場合は、送らないようにしましょう。別の形で応援しましょう。
そうでない場合は、送りましょう!
実際どれくらいファンレターをもらってるの?
大人気作家でも「毎日5000通」から「年に3通」まで
漫画家といえば置く場所もないほどファンレターをもらっている……というイメージがあるかもしれません。
たとえば少女漫画家・武内直子さんは、「セーラームーン」連載時、毎日5000通のファンレターを受け取っていたといいます。1通10gとしても毎日50kg届くわけで、常識を超えた量です。
一方、「ピンポン」などで知られる漫画家・松本大洋さんは「年に3通ほど」のファンレターを受け取るとインタビューで答えています。(TORJA 2013年のインタビュー)松本さんほどの人が!?と、にわかに信じがたい数字です。
ライトノベル作家・清水文化さん(「気象精霊記」)によると、ご自身の経験から推測する現在の「部数に対するファンレターの数」は、読者1万人のうち5〜6人ぐらいとのこと。(清水文化の私設ホームページ 作家にとっての手紙)
清水文化さんは他の作家さんに比べて多くの反応を頂けたために連載ができた、ということを書かれています。
ほとんどの読者はファンレターを書かない
ほとんどの作家はもらわない
一般にはファンレターには次の傾向があると言われます。
- 少年少女向けジャンルだと増え、大人向けになると減る
- 一般認知度が高まると減る
- インターネットの普及とともに減る
- 男性読者より女性読者のほうがお手紙を書く(1:9くらい)
漫画業界全体として、大ヒット作とそれ以外の差が年々広がっており、多くの新人〜中堅作家の売り上げは単行本初版1万部/年 程度だそうです(銀杏舎の新人漫画相談室)。人気作家であってもジャンルなどによってはあまりファンレターをもらわない上、ほとんどの作家は1万部前後の出版部数。
つまり、ファンレターは年に数通〜数十通、という作家が大多数だと思われます。そしてこれは今までに見た作家の「ファンレターを受け取った話」から受ける印象とほぼ一致します。
一部の超人気作家を除くと、「想像よりファンレターは来てない」のです。
※白泉社系少女漫画は条件的に、かなりお手紙文化が強いほうのジャンルだと思います
実際、もらって嬉しいの?
ファンレターについての喜び・感謝を語っている作家さんはあまりにも多く、到底紹介しきれませんが、5名ご紹介します。
※Twitterログインしていないと見られない場合があります
漫画家・ヤマザキコレさん(「魔法使いの嫁」)
ヤマザキコレ 2018年6月7日のツイートより: 有難いことに、ちょいちょいファンレターを送っていただいてます。本当に、すごくうれしいです。本編に関しての指図はちょーっとごめんね!ってなるけど、もう本当、感想とか、嬉しいです(語彙) あなたが、この漫画を読んで救われた、楽しかったと言ってくれた時、作者もまた救われているのです。
※累計600万部以上、フォロワーも5万人以上いるヤマザキコレさんですら「ちょいちょい」という事実には、震えます。
漫画家・金田一蓮十郎さん(「ジャングルはいつもハレのちグゥ」)
「リップサービスで言ってるのでは?」という懸念を吹き飛ばすマジのガチのお言葉も。
金田一蓮十郎 2018年10月23日のツイートより: ファンレターはマジのガチで生きる気力が生まれるし、私…この人の為に漫画描こう!✨✨ってなる。なので応援したい作家さんが居る方は是非ファンレターを出して欲しいと思います。するとマジのガチでその作家さんはあなたの為に漫画を描きます。本当です。
少年漫画家・久保帯人さん(「BLEACH」)
イメージ通り山ほどのファンレターをもらう側の漫画家、久保帯人さんにとっても一通一通が嬉しいようです。
久保帯人&スタッフ 2016年11月17日のツイートより: 「僕の宝物は皆さんからの手紙です 3歳の子供から78歳のおばあちゃんまで うちから徒歩5分のマンションから地球の裏側まで いろんな場所から届いた手紙たちです」「連載中、気持ちも体も折れそうな時に何度も力を貰いました」「最初から最後まで一通だって読まなかった手紙はありませんし何万通もの手紙は今も全て保管してあります」
小説家・辻村七子さん(『宝石商リチャード氏の謎鑑定』シリーズ)
小説家・辻村七子さんの『ここが嬉しいよファンレター』の連続ツイートより。できれば皆様ぜひ、全文をお読みください。
辻村七子 2018年6月5日の連続ツイートより: ⑨お手紙を出そうと思ってくださった気持ちが嬉しい
8つも羅列しましたが、一番嬉しいのは本当にこれです。このお気持ちに尽きます。手元のデバイスで過不足なく意思の疎通ができる時代に、予測変換機能も使えない紙媒体に、腱鞘炎になるリスクを負いながらペンで手紙を書いて、切手を買って貼って、文庫本の最後、あるのかないのかもわからないような位置にある編集部の住所を見つけて、書きうつし、ポストを探して投函するというこの手間には、筆舌に尽くしがたいものがあります。コンビニに行ってお菓子を買うのとはわけが違うというの。それでも「この人にはお手紙を出そうかな」という気持ちが このめちゃめちゃ長い工程の中で一度も途切れず、最後まで続いてくださったということは、ある種の奇跡のように思われます。尋常ではない手間をかけて送ってくださったものゆえに、作者も尋常ではなく喜んでおります。ありがとうございます。本当にそれをお伝えしたかった……!
またこのお手紙には、編集部に対して『この作家には読者がいる』ということを示す指標にもなってくださるようで、作者の心がうきうきする以上の効果もあると聞き及んでおります。何重にも喜ばせてくださって本当にありがとうございます。頑張ります……!
小説家・中山七里さん(「さよならドビュッシー」)
中山七里『嗤う淑女』刊行記念インタビューより: 宝島社の本には読者ハガキが入ってるんです。『さよならドビュッシー』が出たとき、ぼくはそれを84枚いただいた。その84枚、いまだにとってますけど、それさえあれば何も怖くない。ネットで誰が何を言おうと、1枚の読者ハガキの方がどれだけ強いか。その84枚を拝見したとき、ぼくは潰れるまで書かなきゃいけないと思ったんです。この期待を裏切るのは、人間として失格だと。この84枚の、最後の1枚の人があきらめるまで書き続けようと……使命感ですね。
この時点で中山七里さんはデビューから15年。15年前に届いた84枚の読者ハガキが、その後の濃密な作家人生を支えていると思うと、1通のハガキの価値はどれほどのものでしょうか。
「自分なんかが手紙を出すのは恥ずかしい」
「恥ずかしい」と思うのは、その作品があなたにとって重要で、大切で、心の柔らかいところに触れたからではないでしょうか。
多くの作家さんが、まさにその為に人生を削って作品を作っているはずです。それほどあなたの心に届いたのだと知ったらどれほど嬉しいでしょう。
恥ずかしいほどの気持ちこそ、ぜひ伝えてください。
文章がうまく書けない、字が下手で書けない
「名文を書こうとするな。悪筆はむしろ効果がある」
うまいこと書きたい、思った長さに収めたい、美しい文字で書きたい……という気持ち、よく分かります。でも一度忘れましょう。
筆不精になる原因は3つーー「名文を書こうという意識」「悪筆だから恥しいという気持」「たんなるものぐさ」。これ実は小説家・遠藤周作さんの言葉です。
このエッセイでは、手紙という「ちょっとした行為」が人生の明暗を分けていくという立場で、お見舞い状からラブレターまであらゆる手紙について書かれています。「手紙は費用対効果がとても高い」という主張は大いに同意するところで、遠藤周作さん自身も「ファンレターでもって大女優のサインを手に入れた」という自慢話を披露しています!
よい文章の書き方についても詳しく書かれているエッセイではありますが、最初に書かれているのは「そもそも筆不精を止める」ことです。
そして字が下手な人の手紙についても、名文を生み出す作家などの6割はむしろ悪筆と断じ、さらに、救いようのない金釘流(悪筆)のラブレターがむしろ「誠実さ」を思わせ、最終的に結婚に至った例(!)まで紹介、つべこべ言わずにまずは書け!とたたみかけてきます。
大作家として数多くのファンレターを受け取ってきた方がこのように言うのですから、名文でなくても悪筆でも、まずは書く!という気持ちになってきませんか?
印刷でもいい?手書きでないとダメ?
私個人の意見としてはプリントした文字もよいと思っています。なぜなら、出さない手紙よりも出す手紙の方が価値があるからです。
もし自分がするとしたら、作家さんのお名前と自分の署名を手書きして出します。
どう書いたらいい?マナーは?
自分がこれまでいろんな方にお便りを書く中で、失礼なことをしてしまった、悪い手紙だった、と後悔したことはあります。その経験と、他の方の意見などを読んで作った、自分なりに守っている4箇条をご紹介します。前提として、すべて敬語で書いています。
これだけ守ればOK!私の4箇条
自分の住所と名前を書く
住所と名前を明記すると相手が安心して読めると思います。悪質なお手紙と区別することもできます。作家さんが「ペンネームや無記名もOK」など書かれてる場合はお好きな形で。
品物や約束を要求しない
見ず知らずの相手ですから、サインや返信を要求しないように気をつけましょう。
他のなにかと比較しない
たとえ褒めるためだったとしても、慎重にしましょう。
ダメ出しをしない
相手に直接届ける言葉にはポジティブなものを選びましょう。実際書き始めると、ネガティブなことを書く時間がもったいないことが分かると思います。
一番の贈り物はあなたの感想
読者からのプレゼントも喜ばれますが、そもそも一番の贈り物はあなたの感想です。それを忘れずにいましょう。生もの・壊れものの送付は迷惑になってしまう可能性が高いです。相手が贈り物を辞退されている場合は、その通りにしましょう。
書きたいけど書けない!という人に
Twitterより短いグリーティングカードでOK
1ツイート分、140文字でも十分なファンレターになります。まずは、年賀状、暑中見舞い、クリスマスカードなどのグリーティングカード(書くスペースが狭いもの)を買ってみましょう。
「○○○○先生へ。こんにちは。私は○○○○に住む大学生で、○○○○○といいます。最新刊の○○○○○を買いました。すごく面白かったです。特に○話が好きです。○○○○が可愛いかったです。次の巻が出るのが待ち遠しいです。これからも応援しています。暑い日が続きますが、どうぞご自愛ください。」(140文字)
これでもうファンレターの完成です。この半分でも構わないくらいです。つまらない文章を書いてしまった……と思うことがあるかもしれませんが、大丈夫です。出さない名文より、出す一通に価値があります。
グリーティングカードは美しくお洒落なものが種類豊富に売っていますし、たいてい定形外120円で送れます。
箇条書きで書くファンレターでOK
文章にまとめるのが難しい場合は「文章にするのが難しいので」等と前書きして、あとは箇条書きで羅列してしまいましょう。
このアイディアは漫画家・羽海野チカさん(「3月のライオン」)が書かれていたことなのですが、読者がどこに目を止めたのか分かるだけでも嬉しい漫画家と、文章が苦手でも作家に感想を届けたい読者の、両者のニーズ完全一致の素晴らしい作戦だと思いました。
羽海野チカ 2015年11月21日のツイートより: 長いお手紙も、以前私がツイートで書いた、難しかったら箇条書きでも嬉しい、というのを読んでくれた方たちからの、番号がふられたお手紙も、本当に嬉しいです!考えていることを教えてもらえるのは本当に嬉しいのです。メールのお手紙をプリントしてもらったものを今夜読もうと思って今、幸せです
方法はなんでも、応援したい、好きと伝えたい、という気持ちが必ず伝わります。
長くても短くても嬉しい
多くの作家さんが「どれだけ短くても長くても嬉しいです!大好物です!」と仰ってます。長すぎ/短すぎた、と悔やむ必要はありません。
※特に舞台役者、アイドル関係では、長すぎる手紙は相手の迷惑になる……という行動規範をよく見かけますが、作家さん側からの発信では見たことがありません
もっと喜ばれたい!何を書いたらいい?
ずばり「その作品が私の人生に与えた影響」が、最も喜ばれると思います。
「買った」「何度も読んだ」「家族と一緒に読んでいる」「涙が出るほど笑った」「ドキドキした」「こう考えるようになった」「影響されて進路を決めた」「幸せになった」などなど……
小さいと思うことでも大きなことでも、一つ一つとても喜ばれると思います。
また、こんなのもおすすめです。
- 自己紹介(年齢、職業など)
- 作品と出会ったきっかけ
- 作品にハマったきっかけ
- このキャラクターが好き
- このエピソードが好き
- このセリフが好き
- このコマが好き
- 何度も読んだ箇所
- 読んだときの自分のリアクション
- こう思った、こう感じた
- 絵柄や文体で好きなところ
- この作品を人に勧めるときに言っている売り文句
もっと参考になる意見を読みたい
- 宛名の書き方、住所の書き方
- ミドリ 宛名の書き方:復習しておくと安心です
- ※フリクションボールペン以外のボールペンが適しています。書き損じが気になる人は、宛名シールに書いて、成功したものを貼り付けるのがおすすめです。
- 郵便物のサイズと郵便料金
- 日本郵政 手紙・はがきの基本料金:最近よく料金が変わりますので最新をチェック。
- ※封筒に絵ハガキ4枚入れた状態でおおよそ25gです。微妙な場合は郵便窓口で出すか、予め多めに切手を貼っておくのも手です。
- 色んな方のファンレターの書き方
お手紙の書き方で参考になる本
ファンレター目線で特に役立つと思うものを2冊ご紹介します。
連絡手段といえば手紙という時代に書かれた、相手の心を動かす手紙の極意についてのエッセイです。時代背景が古い部分もありますが、軽妙な語口と真剣に練られた内容で、とても参考になると思います。「恋愛を断る手紙で大切な一寸したこと」のあたりはかなりの衝撃で二度見しました。
著者の水野敬也さんは『夢を叶えるゾウ』などで知られる方で、無名の新人がヒットを飛ばせた理由は「手紙の持つ力」だと経験を基に書かれています。ビジネスで役立つ内容なのですが、徹底して「手紙の受け取り手に喜んでもらう」ことを考えるやり方のため、あらゆるレターで役立つと思います。
だから、ファンレターを書こう
緑川ゆき『あかく咲く声 1』1/4コメントより: *お手紙について
いただいたお手紙は隅々まで大切に読んでます。キャラクターへの愛を込めたお手紙や、心に抱えている秘密をこっそりうちあけてくれてるお手紙、読んでるこっちもハイテンションになりそうな楽しいお手紙
感想のお手紙を書くのは初めてという方もいて、不安なのに勇気を出して一生懸命書いてくれたんだなぁと思うと感動でホロリときちゃいました。(中略)本当にありがとうございました!
マンガを描く場をいただけたのも、コミックスを出せたのも、アンケートやお手紙を送ってくれた方達のおかげなのです。この本で初めて私の作品を読んでくれた方も、いつか心動かされる作家さんや作品に出逢ったら、ぜひ勇気を出してお手紙書いてあげてくださいね
- 緑川ゆきさんへのファンレターの送り先
- 〒101-0063
東京都千代田区神田淡路町2-2-2
白泉社 月刊ララ編集部気付 緑川ゆき様
1000冊は買えないが、一通の手紙は出せる
何千冊売れてもファンレターは何通かしか届かない。……ということは、ファンレターを一通書いたら、単行本を1000冊買うくらいの応援になるのでは?
と考えたのも、私がファンレターを書くようになったきっかけの一つでした。
気軽に書ける一通のお便りで、作品、作家の寿命が伸びることがあります。応援したい!と思った時、ぜひファンレターを書いてみてください。
(この記事の初出:2020年9月17日)